経営コンサルの割安株分析

現役経営コンサルタントが中長期保有を前提に中小型株を中心に分析。自身の専門性や調査・分析範囲(能力)に限界がある中で、様々なバックグラウンドを持つ方々との意見交換を行うことで、割安株への投資を実現することが目的です。

IBMの株主還元から見るあるべき資本政策

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さて、前回遠藤製作所の分析を行った際、「借金をして調達したお金を全額株主還元に充てる」と記載した件について少し細くしたいと思います。
(遠藤製作所の分析はこちらになります)

www.con-invester.com

資本効率を高める財務レバレッジ

本ブログの読者の方であれば、敢えて説明する必要もないかと思いますが、この後の話の繋がり上、書かせて頂きます。

簡単な話、「株主に支払う配当よりも、銀行に払う金利の方が安いから借金は活用した方が良い」という話です。
とはいえ、借金をすると財務的な懸念が増加することで格付けが下がり、結果として金利が上昇するという悪影響もあるので、"適切な"範囲で借金をするというのが企業のCFOに課された資本政策なわけです。

つまり、金額の大小はさておき、実質無借金というのは資本政策上、あるまじき姿なわけです。

IBMの株主還元のすごさ

日本よりも遥かに株主還元の意識が強い米国では、凄まじい株主還元が行われています。
普段日本企業の財務諸表を見慣れている我々が、米国を代表する企業であるIBMのそれを見るとおそらく目が飛び出ます。

まず、IBMの株主還元の規模について見てみます。

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直近はFY12-14期間の規模から半減していますが、それでも年1兆円規模は株主還元に充てています。(そもそもFY12-14で年2兆円弱を株主還元に充てていたというのはお化けですね)

「いやいや、IBMは巨人だから・・・」と思った方もいらっしゃるかもしれませんが、この還元金額は、毎期のNet Incomeとほぼ同額です。

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FY14から業績が落ち込みはじめていますが、この結果を受けて直近の株主還元を減らしているわけですね。
勿論IBMも設備投資も行いますし、借金だって返さないといけません。
それでも、毎期のNet Incomeのほぼ全額を株主還元に充てているわけですが、結果としてNet Debtが増加し続けています。

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直近5年で言えば、Net D/Eが健全性の目安である1.0倍を一度も下回っていません。

多くの日本企業の場合だと、Net Incomeでまず借金を返済し、設備投資等の投資を行い、最後に余ったお金で株主還元を行うところでしょう。
しかし、IBMの場合は借金をして株主還元を行っています。

正直、IBMは極端な気がしますが、自身の事業に自信があれば、より資本コストが安い借金(Debt)を増やし、割安な自社株を買い戻すというのは、極めて教科書的で素晴らしいと思います。

日本のキャッシュリッチ企業にとって、IBMのような振り切った資本政策は少々過激だとは思いますが、コーポレートガバナンスの浸透によって少しでも"適切な"資本政策が反映されると信じています。