経営コンサルの割安株分析

現役経営コンサルタントが中長期保有を前提に中小型株を中心に分析。自身の専門性や調査・分析範囲(能力)に限界がある中で、様々なバックグラウンドを持つ方々との意見交換を行うことで、割安株への投資を実現することが目的です。

生涯投資家(村上世彰氏著)

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「生涯投資家」(村上世彰氏著)

当ブログの読者の方であれば既に読まれている方も多いかと思いますが、遅ればせながら読了しました。

上場企業としてあるべき姿を実現するために、十数年間務めた通産省を辞めて、村上ファンドのファンドマネージャーとして活躍し、その後インサイダー取引の容疑で逮捕された村上氏が、どのような思想を持ち、何を目指したのかを初めて語った本です。

出所されてしばらく経った今、なぜ改めて自身の思想を語ろうとしたのかについては本書の「あとがき」に書かれていますので、そちらに預けますが、人生を掛けて上場企業のあるべき姿の実現、乃至は日本経済の再興に挑む姿勢は、もう脱帽でした。

これがサムライってやつですね。

村上氏が人生を掛けて成し遂げようとしていたことは、上場企業に投資する我々投資家一人一人がしっかりと理解しておくべき必要があると思います。
コーポレートガバナンスが日本でも浸透しはじめ、力無き我々個人投資家が安心して投資できるのも村上氏の功績が大きいと思います。

まだ読んでいない方は、是非御一読ください。

時価総額の2~3倍の現金を溜め込む企業たち

本書の中で、村上氏の投資先の一次スクリーニング方法が紹介されていました。
飽く迄「こんな感じ」という程度でしたが、「時価総額に占める現金(および同等物)の割合」「PBR」「株主構成」を点数化してスクリーニングを行うそうです。

特に面白いなと思ったのが「時価総額に占める現金の割合」です。
村上氏が過去に投資して経営改善を迫った企業は、時価総額を超える現金を持った(現金を溜め込んだ)企業だったそうです。
時価総額を超える現金を持っているって凄く可笑しい歪みで、例えば100億円の現金を持っている企業を90億円で買えちゃうわけです。

 勿論その状態で放置されているのも理由があって、本業が弱く今後現金を食いつぶしていくことが予想されたり、経営者が資金効率を全く考えていなかったり(暴君化していたり)。
いずれにせよ、市場から見放されているわけですね。

前者のケースはコーポレートガバナンス云々ではなく、競争力の問題なので、この先もなくなることはないと思います。
一方、後者のようなケースはさすがにこのご時世でないでしょう。
と、思ってましたが、調べてみると出てくる出てくる。なんなら時価総額の2~3倍の現金を溜め込んでいる企業も存在していました。

調査対象

東証およびJASDAQに上場している企業

指標定義(時価総額に占める現金および同等物の割合)

直近決算における「現金および同等物」を2017年7月5日時点の時価総額で割った値

企業一覧

上記調査対象のうち、以下の条件で企業を抽出しました。
・金融業に該当する企業を除外(金融業は必然的に保有現金が多くなるため)
・経営破綻/再建中、直近決算が赤字である企業を除外
(前述の「本業が弱く今後現金を食いつぶしていくことが予想」に該当するため
・時価総額に占める現金および同等物の割合が150%を超える企業
(ちなみに100%を超える企業は物凄い数います)

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(時価総額、現金および同等物の単位はmil USDです)
上記は機械的に抽出した企業です。中には過去に不祥事を起こした企業や、直近こそ黒字だけどこれまで継続的に赤字であった企業も混ざっている可能性があります。

今までの企業分析は「競争優位性を確立できているか」という定性的観点と、「稼ぐ力から見て株価は割安か」という定量的観点を併せて分析してきました。
ここに「保有している資産から見て株価は割安か」という村上氏が用いている定量的観点も、是非取り入れていきたいなぁと思っています。

余談ですが、「時価総額以上の現金を持っている」ということは、株主のお金を無駄に寝かせており、然るべきガバナンスが効いていないということを意味すると、村上氏は考えており、然るべきガバナンスを整備することが企業価値向上に寄与するという前提に立っています。

これはPEファンドの思想に極めて近く、PEファンドも企業価値向上の第一手として買収企業の社内ガバンスの整備を何よりも先に行います。