先日、サン・ライフが時価総額の2倍以上の現金を溜め込んでおり、投資対象として非常に割安であるとブログに書きました。
ところが、ブログを読んだ読者の方のご指摘で、割安であるという評価が誤りであったと気が付きました。
(以下がご指摘のツイートです。非常に勉強になりました。こうした指摘を貰えることが分析内容を公開することの一つのメリットですね)
サンライフは現金持ちだけど、これ大半負債だからね。特定取引前受金。いずれサービスで返すという前提。それを還元で配るというのは実現性に乏しいかも。保険みたいに運用はしてもいいかもだけど。
— かもめ (@kamomejan) 2017年7月13日
今回は分析の何が間違っていたか、それを防ぐためにはどうすれば良いかについて書きたいと思います。
莫大な現金の出所は「前払式特定取引前受金」
サン・ライフのBSの右側には有利子負債がありません。一方、BSの左側を見ると時価総額の約2倍の120億円くらいの現金があります。
そこで僕は「現金溜め込み過ぎじゃ・・・」と判断したわけです。
ところが、サン・ライフは互助会というものを運営しており、会員から毎月一定の月掛金の払込みが行われるようになっているんですね。
これは一回の金額が大きい冠婚葬祭において、事前に消費者が費用を積み立てておくという仕組みです。
読者の方のご指摘の通り、いずれサービスで返す必要があり、結局「誰に」という違いこそあれどサン・ライフはお金を借りている立場なんですね。
(銀行からではなく消費者から借りているということですね)
ちなみにこの互助会について、事業リスクとしてサン・ライフのHP上に掲載されていました。完全な見落としです。
仮EBITDA倍率は11.0x
となると、この「前払式特定取引前払金」で得た現金というのは直接的に株主に帰属しないので、銀行借り入れと同じようにDebtとして扱うのが適切だと思われます。
問題はその「前払式特定取引前払金」の金額規模です。
なんと270億円もあるんですね。
現金と短期性有価証券の総額は約120億円ですから、Net Debtは150億円(270億円 - 120億円)になるわけです。
仮にNet Debtが150億円としてサン・ライフのEBITDA倍率を算出すると11.0xとなります。
これは本業で稼ぐキャッシュの11年分に相当する企業価値がついているということになります。
今後の「成長が期待されている企業」なら正当化されなくはない水準ですが、「成長は期待できないが収益が安定している企業」であれば割高水準だと思います。
先日Buyだと強気発言をして早々撤回する形になりますが、サン・ライフの投資は見送りたいと思います。
自己資本比率やPBRを見ていれば見落としを防げた
業界の特殊性と切り捨ててしまえばそこまでですが、今回のケースで言えば自己資本比率やPBRを見ていれば気付けていたはずでした。
単純に事業で創出したキャッシュを積み上げているのであれば利益剰余金が積み上がっているはずなので、自己資本(PBRの分母)が増加し、結果として自己資本比率が高くなる(PBRが1.0倍を大きく下回る水準になる)と思います。
しかし、サン・ライフの自己資本比率は16%(PBRは1.09倍)となっているわけです。
となると単純に利益剰余金を積み上げているわけではなさそうだな・・・となり、BSの右側の異常に気が付けたわけです。
いずれにせよ、今回のサン・ライフの分析や読者の方のご指摘を受けて、改めて企業分析の奥深さと面白さを感じました。